2015年11月17日、東京地検特捜部は加藤●(=日の下に高、あきら)容疑者、ならびにその妻・子の計3人を金融商品取引法違反(相場操縦)容疑で逮捕しました。同容疑者は「時々の鐘の音」というサイトを通じて株式関連情報を発信する「般若の会」の代表であり、いわゆる「仕手(して)筋」として知られた人物です。まずは、「仕手」とはどういうものなのかから見てみましょう。

加藤容疑者が運営していたとされるサイト(画像は同サイトをキャプチャしたもの)
加藤容疑者が運営していたとされるサイト(画像は同サイトをキャプチャしたもの)

仕手とは、本来は「能・狂言の主役」を指す言葉でしたが、株式投資の世界では投機的な売買、とりわけ法的に見てグレーゾーンから完全に真っ黒な手法で取引を行う者(あるいは集団)を指します。仕手筋の手口を簡単に書くと以下の流れになります。

  1. ターゲットとなる銘柄を選び、目立たないように株を買い集める
  2. ある程度の段階に達したら急速に買い集め、株価上昇の兆しを作る
  3. 情報操作を行い、市場関係者・個人投資家の買いを煽る
  4. 大量の買い注文が入り高騰したところで、仕手筋は売り抜ける

仕手筋は企業本来の価値以上に株価を高騰させやすい銘柄を選び、1~2の段階で大量の資金を投じます。その資金源は金融機関からの融資や宗教法人、はては反社会的勢力の闇資金まで様々あるといわれています。

仕手筋が売り抜けるまでの間はほぼ確実に株価が高騰していくので、その他の投資家も欲を煽られ買いが集まります。その後、3~4のステップを経て仕手筋の売り抜けが完了すると、残された投資家は企業の実力以上に膨らんでいた株価に恐れをなして急落が発生する、といった流れになります。

また、SNSの発達にともない情報操作の影響は昔より広範囲に及ぶようになっています。先述の加藤容疑者は自分のサイトを使って発信していましたが、Twitterで数万単位のフォロワーを抱える人が「これから○○が来そうな予感……」などと呟いてフォロワーの欲が煽られ、結果として銘柄が急騰することもあります。

仕手筋ではない人のツイートでもこうした状況は発生しうるので「情報操作については仕手筋とそうでない者の境界はあいまいになりつつある」という見方もできます。

なお、1990年12月にスタートした「5%ルール」(ある銘柄において保有している株式数が、その銘柄の総発行株式数の5%を超える場合は、金融庁に大量保有報告書を提出することを義務付けたもの)や、証券取引等監視委員会(証取委)の設置などにより、仕手筋の表立った活動は見られなくなりつつありますが、それでもまだ皆無にはなっていないようです。

経済メディアは信用できるのか?

先の仕手筋ではありませんが、証券会社のアナリストや国内外の有名ファンドがメディアで「次にくる銘柄はこれだ!」などと予想することがあります。

しかし、それが本当に純粋な予測なのか、自分(自社)が保有する株の値段を動かしたいがための発言なのかを知ることは誰もできないのが実情です。そのため、こうした一連の発言を「自分が有利なポジション(立ち位置)につくためのポジショントーク」として見る向きもあります。

市況がどんなに下り坂でも常に「相場の先行きは明るい」と強気な見方をする人、常に「日本経済の先行きは暗い」と書き続ける新聞など、世の中にはいろんな発言をする人がいます。発言者のポジションを見極めたうえで内容の取捨選択を行うのが、賢い投資家への第一歩とも言えます。

各媒体のポジションから見る発言傾向(p.154より)
各媒体のポジションから見る発言傾向(『入門 株のしくみ』(杉村富生著)p.154より)

このように株価は業績だけではなく、様々な思惑が絡み合って動くものです。投資するときは、こうした要素も頭に入れたうえで自分でしっかり判断することが大事といえるでしょう。