「時価総額経営」という言葉があります。「自社の株式時価総額(=発行済み株式数×株価)の最大化を経営目標とした会社の運営」をことを意味しており、時価総額上昇のメリットは以下のようになります。

市場は欲と恐怖に満ちている(Illust by alphaspirit/fotolia)
市場は欲と恐怖に満ちている(Illust by alphaspirit/fotolia)
  • 現時点における企業価値評価(≒「力のある企業」という評価)の高さを示せる
  • 今後における成長性や事業収益性の高さに対する期待を集められる
  • その結果、自社や経営陣の社会的ステータスが高まる

時価総額は本来「事業収益の上昇に伴い、会社が成長した結果としてついてくるもの」ですが、最初から「時価総額の最大化を目的とした経営」を目指す事例が新興企業・ベンチャー企業で数多くみられます。

例としてgumi(証券コード:3903.T)を見てみましょう。ソーシャルゲームの開発・運営を主軸とする同社は、上場前から経営者が「時価総額8兆円は見えた」と発言するなど期待を煽り続け、VC(ベンチャーキャピタル)などから多額の資金調達を受けていました。

そして2014年12月18日、同社は株式市場への上場を果たします。多くの新興企業は「東証マザーズ」という新興企業向けの株式市場からはじめ、そこからステップアップして東証一部を目指すことが一般的ですが、同社は加熱する期待と資金を背に直接一部へ上場し、公募価格3300円に対して当日高値で3340円をつけるなど、好調な滑り出しを見せました。

しかし2か月半後、株式市場に衝撃が走ります。

通常、株式市場へ上場する際は、業績や財務状況、反社会的勢力との関係性の有無など厳格な審査が行われ、とりわけ一部上場の場合は審査が格段に厳しいことで知られています。そのため、一部上場企業は「社会的信頼性が高い」というお墨付きを得ていることになります。

ですが、同社が第3期半期決算発表の前日――2015年3月5日に公表した業績下方修正の内容は「15年4月期の予想売上高:309億円→265億円、同営業利益:13億円→▲4億円(赤字)」というものでした。

株式市場を運営している日本取引所グループが定めた上場審査のガイドラインでは「安定的に利益を計上することができる合理的な見込みがあること」という項目があります。このような審査を潜り抜けてきた結果として直接一部上場を果たしたはずなのに、その直後の発表内容がいきなり赤字というのは、通常考えられるものではありません。

煽りに煽って欲を駆り立てた結果がお粗末極まりないものだっただけに反動も大きく、同社の株を持っている人は損失を恐れて投げ売りを開始。結果、株価は2日連続のストップ安で上場時の価格の約半分になり、売り遅れた人は大きな損失を被りました

こうした行為自体法に触れるわけではありませんが、「上場ゴール(上場を企業発展の手段とするのではなく、持ち株の売却で儲けることを目的とした行為)」として厳しい見方をする声が相次ぎました。

このほかにも、

  • IRや適時開示情報(上場会社に義務付けられている、会社の重要事項に関する公開文書)に「フィンテック」「人工知能」など流行りのテーマを脈絡もなく盛り込んで期待を煽り、株価を急騰させる
  • 詳細は明かさず著名なコンテンツプロデューサーの名前だけ出して、「数兆円規模の市場が夢中になるものを作る」といきなり勝利宣言をする

など、株価の高騰を狙った期待の煽り方の手口はさまざまです。もちろん、こうした銘柄の株価すべてが急落するというわけではありません。しかし、期待を煽れば煽るほど決算や業績に対するハードルが上がり、その反動もまた大きくなっていきます。そのため、投資家は株価に対する夢や欲と、急落の恐怖の狭間でトレードすることになります。

このように夢や欲を糧として株価が高騰し、現実に直面した人が株価が急落を恐れて投げ売りを始める様を、先人たちは「ウワサで買って事実で売る」という格言で言い表しています。

ケース2:噴き上がる株価、翻弄される投資家

次に「第三者の言葉で動く株価」の事例を見てみましょう。