『好かれる人が絶対しないモノの言い方』の著者・渡辺由佳さんは、「モノの言い方」のプロ。テレビ朝日でアナウンサーとして人気番組を担当したあと独立し、現在は、ビジネスパーソン向けの研修や大学での教鞭をとっている。その渡辺さんに、誤解や気持ちのすれ違いをなくすための「モノの言い方」について聞いた。(聞き手:日本実業出版社)

言いたいことを伝えるのが苦手なアナウンサーだった!?

-いつごろから、「モノの言い方」を意識するようになったのですか?

もともと私は小さいころから「◯◯がほしい」「◯◯をやりたくない」といった自分の気持ちを言えない性格でした。自分の気持ちを相手に伝えようとしたときに、断られたらどうしよう、負担だと思われたらどうしようと不安になり、人にうまく物事を頼めなかったのです。

けれど、社会人になるとそういう訳にもいかず、お願いをしたり、断ったりする場面にどうしてもでくわします。そんな何かを言わなきゃいけないという場面で、相手を傷つけず、自分の思いをきちんと伝えるための方法を人一倍考えてきたように思います。そのなかで言葉づかいを大切にするようになりました。

-もともと、相手に気持ちを伝えることが苦手だったとは意外ですね。

アナウンサーをしていたときに、編成局の偉い人と話す機会があり、「渡辺君、君はどんな番組がやりたいんだい?」と聞かれたことがあります。そのとき私は、「今のワイドショーのリポーターの仕事がとても充実しているので、一生懸命やりたいと思います」といわゆる優等生コメントを言ったのです。本当は朝のニュースを担当してみたかったのに、遠慮してしまったんですね。

ワイドショーの仕事は非常にやりがいのあるものでしたが、事件や事故の関係者や遺族にマイクを向けることもあり、私にとってつらい仕事でもありました。ワイドショーはやめたいというのが本音だったのですが、うまく言うことができず、結局そのまま、3年半ずっと現場にいることになって……。

精神的に限界だったのか、最後のころには病気になって入院してしまいました。その後、30歳でテレビ朝日を辞めて、結婚、育児を経て、ご縁があって話し方の講師を務めることになったんです。

アナウンサーになっても、やりたいこと、やりたくないことを自分の気持ちに正直に言えないままでした。今思えば、いい子ぶってしまうというか、気が弱いというか、人から何と思われるのかが心配だったんですね。あのとき、私がもし「モノの言い方」を知っていたら、伝えることをあきらめなかったら、また違った今があるかもしれませんね。

教える立場になり、相手を傷つけない「モノの言い方」に四苦八苦

-講師として「指導」するときのモノの言い方も難しそうですね。

先生なので、生徒たちに「モノの言い方」を指導しなくてはいけません。しかし、直接的に注意をすると相手を傷つけてしまうかなと思い、なかなか指摘できませんでした。

たとえば「がさつなモノの言い方だな」と思ったときに、それをストレートに表現すると相手を傷つけてしまいます。そんなときは、「元気があり余りすぎていて、相手を驚かせてしまうかもしれませんね。語尾をもう少し柔らかくしましょうね」と言うように、別の言葉を探して、相手のマイナスポイントを傷つけずに伝えられるよう、四苦八苦していました。

ビジネス研修だと「もっときびしく指導してください」という声もあるのですが、私は気が弱くてそういうやり方はできません。ビジネスコミュニケーションが苦手だという人向けの、励まして元気づける「後押し型」スタイルの指導を心がけてきました。

「◯◯してください」という言葉に上司はうんざりしている?

-上司と話すときに、とくに気をつけたい「モノの言い方」はありますか?

言いたいことを上司にそのまま伝えようとするときに、上司の立場に立って言葉を受け取るときの気持ちを想像してみることです。

たとえば、「この企画はこのような段取りで進めていこうと思います」と言い切られるのと、「このような段取りで進めていこうかと考えていますが、いかがでしょうか」と言われるのとでは、どちらが上司の立場として受け取ったときに、気持ちがよい言葉でしょうか。「いかがでしょうか」と上司に判断を任せる言い方のほうが、適切ですよね。

本でも紹介したのですが、「◯◯してください」という言葉にも気をつけてもらいたいですね。ある雑誌のアンケートを見ていても、「部下から『◯◯してください』と言われたくない」と考えている上司は多いようですから。

「何時に会議室にお越しください」「何時までに書類に目を通しておいてください」と朝から晩まで「◯◯してください」と言われつづけていると、どちらが上の立場かわからなかくなってしまいます。「◯◯してください」を「◯◯していただけますか?」と言い換えるだけで上司の受け止め方は変わってくるでしょう。