本当にわかる地球科学』の共著者であり、名古屋市科学館主任学芸員の西本昌司さんによる短期集中連載。第1回は「ブラタモリ的な視点でみる地球科学」として、第2回は「壮大な視点で捉える、地球科学の面白さ」として地球科学の面白さを語っていただきました。

最終回となる今回は「イトカワや熊本地震、博物館の見かたを変える地球科学の知識」をテーマにお届けします。

時間のスケール

「ここの岩石は腐ってるなぁ」なんて、つい、言ってしまうことがあります。「えっ?石も腐るのですか?!」と言われたこと数知れず…。

はい。もちろん、本当に腐るわけではありません。岩石が風化してボロボロになっていく様を、地球科学ギョーカイでは「腐る」と比喩します。その変化は、目で見ていて分かるような速さでは進みません。何万年もかけて岩石と水が化学反応を起こし、少しずつ変質していくわけです。

1万年くらい前の出来事を「最近」とか、2000万年前の地層を「新しい」などと言って、驚かれてしまうこともよくあります。岩石が何千万年も前にできたものだと聞くと「古いのですね~」なんて言われてしまうこともしばしばです。けれども、地球科学を学ぶと1億年前の地層だと言われても驚かないようになるでしょう。

どうやら地球科学に触れていると、タイムスケールの感覚が普通の人とズレていくようです。ズレるというか、訓練によって慣れてしまうと言った方がいいかもしれません。地球の現象を知ろうとすると、長いタイムスケールで考えることが必要だからです。

地球のスケールは、空間軸だけでなく時間軸も壮大なのです。人間のタイムスケールで見れば滅多に起こらない地震や火山噴火といった現象も、長い地球のタイムスケールで見ればしょっちゅう起こっている現象ということになってしまいます。人々にとって天変地異と思えるような自然現象が、実は過去に繰り返し起こってきたことだと感じるようになります。

もしかすると、長いタイムスケールで考えようとすることが地球科学を学ぶ一番の成果かもしれません。

地球科学の視点で地震を見る

この連載記事を書き進めていましたら、熊本で大地震が起こってしまいました。地球科学の面白さを伝えようと書いている文章で今の地震災害にふれることには躊躇があるのですが、熊本の知人から届いたメールを見て少しだけ書いておくことにしました。

そのメールというのは、地球科学関係の知人から私からの安否確認のメールに対する返信でした。本人は被災しなかったけれど、まわりは大変な状況だという報告の後に「自然のすごさを目の当たりにしています」と一文が添えてありました。その人となりを知っているからかもしれませんが、やっぱり地球科学をやっている人のコメントだなぁと思ってしまったのです。

なにしろ、段差や坂ができて風景が変わるという自然現象の目撃者となったわけです。さんざん学びながらも滅多に見ることができない断層運動や、斜面崩壊などが眼の前で起こったわけです。