ソクラテス「ぼくの考えではね、恋は人間にとって、なくてはならないものだよ。人間が利己的な関心とケチくさい損得勘定を超え出て、より人間らしい存在になるために、恋は避けて通ることのできない道だとさえ思っている」
サトル「また難しい話になりそうですね……」
ソクラテス「そうかなぁ?」

ソクラテスは首をかしげた。

サトル「でも、とりあえず、ソクラテスさんが恋愛をいいものだと思っていることはよくわかりました」
ソクラテス「そうか。それはよかった」

サトル「だけど、おかしいじゃないですか。ぼくがせっかく恋愛したい気分になってるのに、『恋はいつか終わる』とか、『恋をしつづけることは穴を開けた水瓶に水を注ぎつづけるようなものだ』とか、水を差すようなことばっかり言って。そんなことを言うヒマがあったら、ぼくに彼女ができるように、もっと応援してくれたらいいのに。何度も言ってますけど、ぼくは恋人がほしいんですよ」

ソクラテス「ぼくはキミの恋路を応援しているつもりだよ。ただ、恋というはかないものに、キミがあまりに多くのことを求めているように思えたものだからね」

サトル「いま応援するって言いましたね? だったら、どうやったらぼくに彼女ができるのかを一緒に考えましょうよ!」
ソクラテス「……まったく、キミという人は。自分が聞きたいことしか聞こうとしないんだから」
サトル「ソクラテスさんだって、さっき『私は自分の聞きたいことを聞く』って言ったじゃないですか! ……でも、相手がソクラテスさんだからこそ、こういう話を聞きたいなって思うんですよ」
ソクラテス「しかたないなあ」
サトル「ありがとうございます! ゼウスにかけて、心から感謝します!」

ゼウス様でもデウス様でもいいから、早く恋人ができる方法を教えてほしいんだって! モテたいんだ、ぼくは!

ソクラテス「よし。では、さっき明らかになった恋の本質を手がかりにして、キミがモテるための方法を考えてみよう」
サトル「ぜひ!」

「楽しそうに仕事をしている人」はモテやすい

ソクラテス「いいかい、サトルくん。いまから言うことをよく聞いてくれ。そして、同意できないところや明らかに間違っているところがあれば、きちんと指摘してくれ」
サトル「わかりました」

ソクラテス「まず、思い出してほしいんだけど、恋というものは、自然本性的に、自分に欠けているものに対して向けられるんだったよね?」
サトル「はい」

ソクラテス「このことは、キミにかぎらず、恋をするすべての人に当てはまる真実である」
サトル「そうですね」
ソクラテス「ということは、キミに恋をする人は──仮にそういう人が誰かいるとすればだけど──キミのことを自分に欠けているものとしてとらえている、ということになる」
サトル「はい」

あなたにとって「欠けている人」とは?(photo by milatas/fotolia)
あなたにとって「欠けている人」とは?(photo by milatas/fotolia)

ソクラテス「要するに、キミが相手にとって容易に支配できる存在であるときに、その相手がキミに対して恋心を抱くことは決してない、ということだ」
サトル「たしかにそうなりそうですね」
ソクラテス「それじゃあ、もし誰かに恋をしてほしいと思うなら、キミは相手のご機嫌をとったり、言いなりになったりするべきじゃないんだ」

サトル「……うーん。でもね、ソクラテスさん、そんなふうに悟っていたら、たぶん彼女なんて一生できませんよ。いまはもう、スマホも携帯もなかったソクラテスさんの時代とはちがうんです。女の子と付き合うなら、マメな人間にならなくっちゃ。合コンに行って、メアド(メールアドレス)をゲットして、こまめにメールを送る。これをやらないと、そもそもスタート地点にすら立てないんですよ」

ソクラテス「言うまでもないことだけど、マメな人間であるのはちっとも悪いことじゃないよ。キミが本当にマメな人間で、気のある相手以外にも私心なしで親切にできる性格なら、そういうキミを見て、キミのことをキミの善さのゆえに求めてくれる人が、いつかきっと現われると思う。そういうときこそ、実りの多い恋愛のチャンスだ」
サトル「……はぁ」

ソクラテス「しかし、仮にキミが好意を持った人に対してだけ親切で、マメな人間のフリをしているだけだったとしたら、そういう嘘はいつかきっと見破られるはずだ。当然、そういうキミが本気で誰かに恋されることもないだろう。だって、さっきも言ったことだけど、いったい誰が自分にゴマをする人を恋い焦がれたりするだろうか」

ぼくは話がうまく飲み込めなかった。