「何かを知らなくても、恐れてはいけません。何かをするためには相当に賢くなければ、と思うことはありません。私たちのような愚直な人間が、何かをなし、動かしていくのです」

(以上、同書 CHAPTER6  168~169ページより)

「知らない」という姿勢で臨むための4つのアプローチ

著者、デスーザとレナーは本書において、「知識が“ある”とみなすことの問題点は、その視点が往々にして、知識が“ない”ことにひそむ機会を閉め出す点だ」と述べています。その「機会」とは、言うまでもなく新しい学びと可能性です。

すでに知っていることすべてを捨てろ、と言っているのではありません。「知らない」という姿勢で臨むことによって、既存の知識に縛られずに不確実な状況と向き合い、新たな挑戦と学びに心を開くことを提案しているのです。

彼らは私たちに、「知らない」という姿勢で臨むためのアプローチを、具体的な取り組みを交えて提示しています。それは以下の4つです。

1. カップをからっぽにする
2. 見るために目を閉じる
3. 闇に飛び込む
4. 「未知のもの」を楽しむ

これらは、複雑で不確実な状況に向き合うための思考と行動のアプローチであり、気軽に、楽しみながら取り組めるトレーニングでもあります。

ここでは「1.カップをからっぽにする」ためのトレーニング(実験)を紹介します。「カップ」は「頭」「知識」に言い換えられます。ムハマド・ユヌスのような「初心」を取り戻すために、次のことに取り組んでみましょう。

カップをからっぽにする
カップをからっぽにする

教える:自分が得意なことをそれについて何も知らない人に話し、教える。専門用語を使いすぎていないか確認し、シンプルなしゃべり方を自分に課す。勇気があるなら、学校や子どもクラブなどで講演や指導役を買って出よう。

片づける:物理的な意味での部屋の片づけは、精神をも片づける。有用ではないもの(思い込みや決めつけ)をどれほど多く抱え込んでいるかを、象徴的に理解できる。まずは引き出しひとつから始めて不要なものを廃棄し、空間をつくり出す。心の中はどんな気持ちになるだろうか?

ソクラテスになる:古代ギリシャの哲学者ソクラテスにならい、「自分はものを知らぬ」という態度をとってみること。具体的には、相手から発せられた問いにすぐに答えず、数秒ほど黙考する。本当にわからなく、状況が許せば、実際に「わかりません」と言ってもよい。この試みによって自分を省みて観察する余地をつくり、反射的な行動を起こさない意識のブレーキができる。

習慣を解きほぐす:毎日のルーティンを、まったく違う方法でやってみる。上着を着るときはいつもと反対の腕から袖を通す。腕を組むとき、上に来る腕を逆にする。イライラして物事を投げ出しやすい癖があるなら、踏ん張ってみよう。重要なのは、そうした時にどんな気分になるかを意識すること。古い習慣を自覚し、別の選択肢があると自分に教えるのだ。

(以上、同書 APPENDIX  340~343ページより)



知らない」状態に能動的に向き合い、むしろそれを最大限に活用し、不確実な未来にも臆せず、しなやかに対応する。本書を読み進めるうちに、著者たちが提示する方法は、複雑極まりない現代においては至極合理的なアプローチに感じられます。

その意味で本書は、先の見えない課題に取り組むビジネスリーダーたちにとって、「未知」の世界に飛び込む勇気を与えてくれる本なのではないでしょうか。