フリーアナウンサーの篠崎菜穂子さんは、数学科を卒業後、中学高校で数学を教えていた経歴を持ちます。アナウンサーに転身したきっかけは、受験生を応援するラジオ番組のアシスタントをつとめたこと。現在は、サイエンス関係の番組やイベント出演などの仕事を通じて、数学の楽しさを世の中に伝えています。
ここでは篠崎さんに、はじめての著書『はたらく数学 25の「仕事」でわかる数学の本当の使われ方』に込めた思いについて語っていただきました。
(本稿は同書「まえがき」を再編集したものです)

 数学は見えないところで大活躍している

「何のために数学を勉強するの?」

『はたらく数学』著者 篠崎菜穂子さん
『はたらく数学』著者 篠崎菜穂子さん

この質問は数学を勉強していく中で、一度は思い浮かぶのではないでしょうか。数学の成績が伸び悩んできたとき、授業についていけなくなったとき、…。数学に対して少しネガティブな気持ちが芽生えた時に出てくるこの質問。私自身も娘を育てながら「いつ、この質問が出てくるか」と内心ヒヤヒヤしています。

皆さんはこの質問にどんな答えが浮かびますか?

「社会で役に立っているから」
「論理的な思考力が身に付くから」
「受験に必要だから」

確かに、どれも納得がいくような、いかないような。
そうすると「因数分解や三角関数、微分積分ができなくたって四則計算が出来れば十分、生きていけるよ!」と反論されてしまいそうです。数学が社会の中で具体的にどのように役立っているのかが見えにくいのも、このような疑問が出てくる1つの原因なのかもしれません。

私は数学科を卒業後、中学高校で数学を教えていました。その時に受験生を応援するラジオ番組のアシスタントになったことがきっかけで、アナウンサーに転身しました。アナウンサーという仕事は様々な業種の方々と接する機会があります。皆さん、私の経歴を知ると「数学は中学で挫折したよ。」「数学が得意なんてすごいね。頭がいいね!」などとおっしゃってくださいます。やはり、数学に苦手意識を感じていらっしゃる方が多いことを感じます。

一方で「数学が苦手だったから仕事が大変で。まさか自分の仕事で数学が出てくるなんて思わなかったよ。」「数学が出来れば、もう少し効率よく仕事が出来るのになぁ。」など、社会に出てから数学の必要性を実感している方が意外に多いことにも気が付きました。しかもそれが理系のお仕事だけに限らないのです。

「もしかしたら、数学は私の思いもつかないところで大活躍をしているのかもしれない。それを知ったら、数学を学ぶ理由も少しは具体的に見えてくるのかもしれない」と感じ、私は様々な職業の中で使われている数学に興味をもち始めました。

仕事との関わりで見えてくる「数学の役割」

そう思って振り返ってみると、私自身もアナウンサーという一見、理系とはあまり関係のない仕事の中で数学を学んだことがとても役に立っていることに気がつきました。数学を学んできたことが強みとなり、理系(数学やサイエンスなど)、教育系の番組やイベントの司会、中学生向け数学番組で台本の執筆兼講師として出演をしたこともあります。

また、対談などのインタビューの仕事では、相手の方から引き出したい答えをある程度想定して進めていく場合があります。限られた時間の中で引き出したい答えを導いていく過程は、数学の証明方法とよく似ています。仮定から結論に導く様々な道筋を思い浮かべ、どの経路(証明法)がいちばんわかりやすくエレガントかな?などと考えながらインタビューを進めていく私の頭の中は、数学の証明問題を解いている時とほぼ同じ思考回路になっています(笑)。